「うちの仕事は個別対応が多いから、マニュアル化なんて無理だよ」。
そうお考えの中小企業経営者の皆さま、そのお気持ち、よくわかります。
お客様一人ひとりに合わせた柔軟な対応は、会社の信頼を築く上で欠かせません。しかし、その「個別対応」という言葉の裏には、「毎回イチから考えて対応する」という非効率な働き方が隠れていることも少なくありません。
もし、その個別対応の「共通部分」を見つけ出し、仕組みとして整理できたらどうなるでしょうか?
今回は、個別対応が多いと諦めていた60人規模の企業が、kintoneとマニュアルを組み合わせることで、どのように業務を「固め」、生産性向上と従業員の成長、さらには事業拡大を実現したのか、その成功事例をご紹介します。
なぜ「仕事を固める」必要があるのか?
多くの企業が直面する課題は、以下のようなものです。
- 対応品質のバラつき: 担当者によってお客様への対応に差が出てしまい、クレームにつながることも。
- 新人教育に時間がかかる: 属人化している業務が多く、新人が一人前になるまでに長い年月がかかってしまう。
- 非効率な情報共有: 過去の対応履歴を探すのに時間がかかったり、口頭での情報共有に終始してしまい、情報が埋もれてしまう。
- 思考の停滞: 毎回イチから対応方法を考えるため、より良くするための改善策を考える余裕がない。
「個別対応が多い」と感じている企業ほど、実は「毎回同じようなことを考えている」という非効率が潜んでいます。この状態を放置すると、いつまで経っても会社の成長は鈍化し、従業員は日々の業務に追われるばかりになってしまいます。
そこで重要になるのが、「仕事を固める」という視点です。
「仕事を固める」とは、業務を定型業務と非定型業務に分解し、定型業務を誰でも同じ品質で実行できるように仕組み化することです。
非定型業務、つまり判断や工夫が必要な部分にこそ、人本来の思考と創造性を集中させる。このプロセスこそが、生産性向上のカギとなります。
解決の鍵は「kintone」によるマニュアルのデジタル化
この課題を解決するために、私たちがご支援したのが、kintoneを活用したマニュアルのデジタル化でした。
kintoneは、プログラミング知識がなくても、自社の業務に合わせたシステムを簡単に構築できるクラウドサービスです。
私たちは、このkintone上にマニュアル運用ツール「manulet(マニュレット)」を構築し、お客様と一緒に「個別対応が多い」と思われていた業務を分解していきました。
具体的には、以下のようなアプローチで進めました。
- 業務の棚卸しと分解: まず、お客様対応の一連の流れをすべて洗い出し、どの部分が定型化できるかを徹底的に議論しました。
- デジタルマニュアルの作成: 洗い出した定型業務をkintoneアプリとして構築し、写真や動画をふんだんに使ったわかりやすいマニュアルを作成しました。
- 「ひな形」の活用: kintoneの複製機能を活用し、基本的な対応手順を「ひな形」として登録。個別対応が必要な部分だけを追記・修正する運用に切り替えました。
- 変更履歴の可視化と共有: 変更があった場合は、kintoneのコメント機能や更新履歴機能を活用して、誰がいつ、どのような変更をしたのかをチーム全体で共有できる仕組みを構築しました。
この「ひな形」の活用こそが、個別対応が多い仕事で効果を発揮しました。
お客様ごとの対応マニュアルを都度作成するのではなく、「基本対応」というベースのマニュアルをコピーし、お客様固有の情報を追記していく。この運用により、ゼロから考える手間が大幅に削減されました。
導入後に得られた3つの劇的な変化
この取り組みの結果、お客様には以下のような大きな変化がもたらされました。
1. 生産性の向上と業務品質の安定
以前は、新人スタッフがお客様対応を一つ一つ覚えるのに時間がかかっていました。しかし、デジタルマニュアルが整備されたことで、研修期間が約30%短縮されました。
さらに、業務が可視化・標準化されたことで、担当者による対応品質のバラつきがなくなり、お客様からの信頼度が向上しました。
2. 従業員の自律的な成長と貢献意欲の向上
デジタルマニュアルは、一度作って終わりではありません。業務をより良くするための工夫や改善案を、従業員が直接マニュアルに書き加え、共有できるようになりました。
「この表現の方がお客様に伝わりやすい」「この作業はこうすればもっと速くなる」といった現場の知恵が可視化・共有化されたことで、従業員は単にマニュアル通りに動くだけでなく、自律的に業務改善に参加するようになりました。これは、会社にとって大きな財産です。
3. 事業拡大への道が開かれた
業務が「固められた」ことで、社内だけでなく、協力会社に業務を依頼する際の品質も均一化されました。従来は、個別の担当者への依頼が中心でしたが、マニュアルによって誰が対応しても一定の品質を保てるようになったのです。
これにより、協力会社との連携がスムーズになり、これまで困難だったフランチャイズ(FC)事業所の展開も視野に入れられるようになりました。業務の標準化は、事業をスケールさせるための強固な基盤となったのです。
「マニュアル化の壁」を乗り越えるには
「うちの業務は複雑すぎて、マニュアル化は難しい」と感じるかもしれません。確かに、判断が伴う業務をすべて完璧にマニュアル化するのは不可能です。
しかし、その「難しい」業務の中にも、必ず共通する手順や判断基準が存在します。
- 最初の5分: 最初に何を確認し、どのような質問をするか。
- 基本の対応: 多くのケースで共通する、基本的な解決策や案内方法。
- 過去の事例: 過去に似たようなケースでどう対応したか。
まずは、業務全体をいきなりマニュアル化しようとせず、最も頻度が高く、かつ定型化しやすい部分から小さく始めることが重要です。kintoneなら、使いながら少しずつマニュアルを育てていくことができます。
次のステップは?
あなたの会社の業務も、きっと「固める」ことができる部分があるはずです。
もし「うちの会社でも試してみたい」「何から始めたらいいかわからない」とお考えでしたら、まずは現在の業務内容をヒアリングし、どこから着手すべきかを一緒に考えてみませんか?
kintoneとマニュアルの組み合わせは、業務効率化だけでなく、従業員の自律的な成長を促し、会社の未来を創るための土台となります。
さあ、あなたの会社の「個別対応」という財産を、未来への成長エンジンに変えていきましょう。