注文できないこれからのシステム・AI ─ 便利さの陰で「注文できない人」が増えていませんか?

最近、飲食店に入ると「タッチパネルで注文してください」と案内されることが増えましたよね。

メニューを開いてタップするだけ。確かに便利ですし、お店にとっても注文ミスが減ったり人手不足を補えたりと、いいことずくめに見えます。回転寿司、牛丼チェーン、ファミレス……気がつけばどこもかしこも端末やタブレットが並んでいます。

でも、ふと周りを見渡してみてください。あの端末の前で、少し困った顔をしているご高齢の方を見かけたことはありませんか? 

実は私、そんな場面をよく目にするんです。注文したいのにできない。お金も持っている、食欲もある。なのに「注文する」という、たったそれだけのことがハードルになって、お店に入ること自体を遠慮してしまう。

入口で中を覗いて、端末を見て、そっと引き返す。そんな光景が静かに広がっているように感じています。今日は、ちょっとそんな話をしてみたいと思います。

「注文できない」という見えない壁

無人オーダーの端末って、使い慣れた私たちにはとても便利なものです。

でも、ご高齢の方にとっては話が違います。まず画面の文字が小さい。メニューの分類がわかりにくい。タップの反応がうまくいかない。そもそも「どこを触ればいいの?」というところからのスタートです。

先日、あるチェーン店で食事をしていたときのことです。一人のご高齢の方がお店に入ってきました。まず席選びで少し戸惑い、ようやく座って端末に向き合ったかと思うと、画面に流れるCMを数秒間じっと見つめていました。

私は注文端末のUIに興味があって、他の方がどんなふうに操作するのかを観察するのがちょっとした趣味なんです。声をかけて代わりに注文してあげることもできたのですが、ご自身で操作して「できた!」という成功体験を持ってもらったほうが、次にお店に入るハードルが下がるんじゃないかなと思い、いつものように見守ることにしました。

「あ、ここで迷うんだな……」「この文字は確かに小さいよな……」と、心の中でつぶやきながら観察を続けていました。カテゴリのタブを押しても画面の変化に気づかなかったり、スクロールという概念自体がわからなかったり。私たちが当たり前にやっている操作の一つひとつが、実は「慣れ」に支えられているんだなと、あらためて感じた瞬間でした。

届いた商品が二つ ── 小さなミスが残した大きな後味

私の料理が届いて食べ始めた頃も、その方の操作はまだ続いていました。しばらくして、ようやく注文が通ったようです。ほっとしたのも束の間、届いた商品を見て驚きました。同じものが二つ並んでいたんです。

店員さんが「操作ミスですね」と伝え、その方は申し訳なさそうに頭を下げていました。幸い、片方はキャンセル扱いになりましたが、なんとも言えない空気だけが残りました。

お店にとっては商品が一つ無駄になったわけですし、ご高齢の方にとっては「やっぱり自分にはこういうお店は無理だ」と感じてしまったかもしれません。あの方がまたあのお店に来ることは、たぶんないんじゃないかな……。そう思うと、少し切ない気持ちになりました。

システムの「ちょっとした気配り」が変えられること

私はシステムというのは、人をハッピーにするためにあるものだと思っています。今回のケースで言えば、ほんの少しの工夫で結果が変わっていたかもしれません。

たとえば、一人のお客さんが同じ商品を二つ注文したとき、「〇〇が2個注文されていますが、よろしいですか?」と画面に確認が出るだけでいいんです。

べつに「おかしいですよ!」と警告する必要はありません。優しく聞くだけでいい。本当に二つ欲しい方には失礼にならないし、間違えた方には気づくチャンスになります。

入力された人数と注文数を照らし合わせるとか、今までの注文データから「これはちょっと多いかも」と判断するとか、技術的にはそんなに難しいことではないはずです。

いわゆる「異常値の検出」というやつですが、難しく考える必要はなくて、要は「ちょっとおかしくない?」をシステムが気づいてくれるだけのことです。

でも、こういう視点ってシステムを作る側にはなかなかないんですよね。作っている人たちは端末操作に慣れていますから、まさか「注文ができない」なんて想像しにくいのかもしれません。

画面の向こう側にいる人が、どんな気持ちで、どんな手つきでタッチしているのか。そこに思いを馳せることが、実はいいシステムを作るいちばんの出発点なんじゃないかなと思います。

お店の「一声」がつくる安心感

もちろん、システムだけで全部解決できるわけではありません。お店側の対応もとても大事です。

ご高齢の方が入ってきたとき、忙しい中でも「もし操作がわからなければ、お気軽にお声がけくださいね」と一言あるだけで、ぜんぜん違うと思うんです。その一言があるだけで、安い価格で頑張っているチェーン店にも、ほんのり温かさが生まれる気がします。

マニュアルにそういった一文を加えるだけでいい。大げさな接客改革なんて必要ありません。特別な研修もいりません。でも、その「ほんの少しの温かさ」が、ご高齢の方にとっての「このお店にまた来てもいいかな」という気持ちにつながるのではないでしょうか。

これからの日本はますます高齢化が進んでいくと言われています。にもかかわらず、チェーン店をはじめ多くのお店が、こうした視点をあまり意識していないように見えるのは、ちょっともったいないなと感じます。

便利さの先にある「やさしさ」を考えたい

生成AIが発達して、いろんな場面で機械が活躍する時代になってきました。注文端末に限らず、セルフレジや自動受付など、私たちの周りにはどんどん無人化・自動化の波が押し寄せています。

それ自体は悪いことではないし、むしろ世の中を便利にしてくれるすばらしい進化です。でも「便利になった!」で終わりにするのではなく、そこからこぼれ落ちてしまう人がいないかどうか、ちょっと立ち止まって考えてみることも大切なんじゃないかなと思います。

技術が進めば進むほど、使えない人との差が開いてしまう。その差を埋めるのもまた、技術の役割のはずです。

「〇〇が2個注文されていますが、よろしいですか?」──たったこれだけの確認メッセージ。「お困りでしたらお声がけくださいね」──たったこれだけの一言。小さなことかもしれませんが、その小さな気配りが、誰かの「今日のお昼ごはん」を楽しい時間に変えてくれるかもしれません。

システムを作る人も、お店で働く人も、そしてお客さんとしてお店にいる私たちも。みんながほんの少しずつ「やさしさ」を持ち寄れたら、もっと暮らしやすい世の中になるんじゃないかな、なんて思っています。便利さの先にある「やさしさ」。これからのシステムやAIに、いちばん大事な機能かもしれませんね。