機能も大事ですが…。中小企業の業務改善は「人」から始まる!

先日、とある自治体のkintone研修でお話しする機会をいただきました。

ローコード・ノーコードツール、DXツールといった新しい技術の話をする中で、私が特に強調したのは「機能そのものももちろん大事ですが、その前に、まず何のために業務改善をしたいのか、何が皆さんの仕事の負担になっているのかをじっくりと考えて取り組むべきです」というメッセージでした。

業務改善の主役は、他ならぬその業務に日々携わっている皆さん自身です。ツールの導入はあくまで手段。今回は、中小企業のリーダー・経営者の皆さんが、どのように「人」を主役にした業務改善を進めていくべきか、kintoneを例に具体的にお話ししたいと思います。

毎日感じる「なんとなくの不便」がDXのヒント

「うちの会社、もっと効率化できるはずなんだけど、何から手をつけていいか…」「毎日のルーティン業務に時間がかかりすぎている」「紙の管理が山積みで、必要な情報がすぐに見つからない」

このような「なんとなくの不便」や「日々のモヤモヤ」を感じていらっしゃる経営者の方も少なくないのではないでしょうか。20人から50人規模の中小企業では、まだExcelや紙での管理、メールや口頭での情報共有が中心というケースも珍しくありません。

しかし、そうした慣れたやり方の中にこそ、実は大きな非効率が潜んでいます。

  • 情報の散逸: 必要な情報が誰かのPCの中や特定の部署にしかないため、確認に時間がかかったり、誤った情報で業務が進んでしまう。
  • 二重入力・手作業の多さ: 複数のシステムや書類に同じ情報を手で入力したり、コピペしたりする作業が多く、ミスが発生しやすい。
  • 進捗状況の不透明さ: 誰がどこまで作業を進めているのかが見えにくく、進捗確認のために何度も連絡を取り合う必要がある。
  • ノウハウの属人化: 特定の担当者にしかできない業務が多く、その人が不在だと業務が滞る。

これらは、日々の業務で感じる小さな「痛み(ペインポイント)」の積み重ねです。そして、これらの痛みが積み重なることで、本来ならもっとお客様へのサービス向上や新しい事業展開に注力できたはずの貴重な時間やリソースが失われているのです。

kintoneで「業務の見える化」から始める改善

こうした課題に対し、kintoneは非常に有効な解決策となります。kintoneは、プログラミングの専門知識がなくても、自社の業務に合わせてシステムを「作る」ことができるクラウドサービスです。まるでExcelを扱うような感覚で、業務アプリを簡単に作成・運用できます。

「でも、うちはITに詳しい人がいないから…」そう思われるかもしれません。しかし、kintoneの真価は、誰もが直感的に使えるシンプルさと、柔軟性にあります。

kintoneでできることの概要:

  • 顧客情報や案件進捗の共有: 営業担当者の活動状況や顧客とのやり取りを一元管理し、チーム全体で共有できます。
  • 日報やタスク管理: 毎日の報告業務を効率化し、誰が何のタスクを抱えているのかをリアルタイムで把握できます。
  • 契約書や申請書の電子化: 紙の書類をなくし、承認プロセスをスムーズにします。
  • 情報共有ポータル: 社内のQ&Aや業務マニュアルなどを集約し、必要な情報にいつでもアクセスできるようにします。

これらはほんの一例ですが、kintoneを使えば、これまでバラバラだった情報を一つにまとめ、「見える化」することができます。

業務が「見える」ようになると、次に何をするべきか、どこに無駄があるのか、社員一人ひとりが「自分ごと」として考えられるようになるのです。

実践!「人」から始めるkintone導入ステップ

では、具体的にどのようにkintoneを導入し、業務改善を進めていけば良いのでしょうか?大切なのは、「機能を入れる」のではなく、「業務を改善する」という視点を持つことです。

  1. 「課題洗い出し会議」を開催する:
    • 目的:普段の業務で「困っていること」「もっとこうなれば良いのに」と思っていることを、部署や役職に関わらず自由に意見を出し合います。
    • 進め方:
      • まずは現状の業務フローを書き出してみる(例:問い合わせから受注までの流れ、日報作成の流れなど)。
      • それぞれの工程で「時間がかかっている点」「ミスが多い点」「情報が共有されていない点」などを付箋に書き出し、貼り出していく。
      • 特に「繰り返し発生する手作業」「転記作業」「検索に時間がかかる情報」などに注目します。
    • ポイント:全員が「当事者」として参加し、ネガティブな意見も歓迎する雰囲気づくりが重要です。ここでのキーワードは「視点を変える」です。普段見慣れた業務を、改めて客観的に見てみましょう。
  2. 小さく始める「プロトタイプ」:
    • 「よし、全部デジタル化しよう!」と意気込むのは素晴らしいですが、一度にすべてを変えようとすると、現場の負担が大きくなり、失敗するリスクが高まります。
    • まずは、洗い出した課題の中から、最も効果が見えやすく、かつシンプルな業務を一つ選び、kintoneでアプリを作ってみましょう。例えば、「営業日報の電子化」や「顧客からの問い合わせ管理」などです。
    • この段階では、完璧を目指す必要はありません。まずは「動くもの」を作ってみることが大切です。ここでのキーワードは「アイディア」と「工夫」です。既存の業務をどうkintoneに落とし込むか、現場の意見を取り入れながら試行錯誤します。
  3. 「使ってみて、改善」を繰り返す:
    • 作成したアプリを、実際にその業務に携わる社員に使ってもらいます。
    • 使ってみた感想や、「もっとこうなったら便利なのに」という意見を積極的に集め、アプリに反映させていきます。kintoneは、変更が容易なため、PDCAサイクル(計画→実行→評価→改善)を素早く回すことができます。
    • このプロセスを通じて、社員は「自分たちの意見が業務改善に繋がっている」という実感を持ち、主体的にDX推進に参加してくれるようになります。

kintone導入で得られる具体的な効果

kintoneを導入し、業務改善に取り組むことで、中小企業は以下のような具体的なビジネス効果を期待できます。

  • 時間とコストの削減:
    • 手作業や二重入力の削減により、例えば週に数時間の業務時間が短縮され、それが社員数×時間で年間数十万円〜数百万円規模の人件費削減に繋がる可能性もあります。
    • 紙代や印刷コスト、郵送費などの削減。
  • 業務の標準化と品質向上:
    • 業務フローが明確になり、誰が担当しても同じ品質で業務が進められるようになります。
    • ミスの削減により、手戻りやクレーム対応のコストが減少します。
  • 情報共有の促進と意思決定の迅速化:
    • リアルタイムで最新情報が共有されるため、経営層や現場が状況を正確に把握し、迅速な意思決定が可能になります。
    • 顧客からの問い合わせへの対応速度が向上し、顧客満足度アップにも繋がります。
  • 社員のモチベーション向上とエンゲージメント強化:
    • 無駄な作業が減り、本来の業務に集中できるため、社員のストレスが軽減され、生産性が向上します。
    • 自分たちの意見が反映されることで、「自分たちの手で会社を良くしている」という意識が芽生え、エンゲージメントが高まります。

業務改善」は単なるコスト削減だけではありません。社員の働きがいを高め、結果として企業の競争力向上に繋がる重要な投資なのです。

よくある障壁と乗り越え方

「導入は良いけど、社員が使ってくれるか心配…」「ITに苦手意識がある社員が多い」といった懸念もよく聞かれます。

  • 障壁1: 社員のITリテラシーへの不安
    • 克服法: 導入初期は、ITリテラシーの高い社員がリーダーシップをとり、苦手な社員への丁寧なサポート体制を整えましょう。少人数での勉強会や、疑問をすぐに解消できる相談窓口の設置も有効です。kintoneは直感的に操作できるため、使っていくうちに慣れるケースがほとんどです。
  • 障壁2: 既存のやり方を変えることへの抵抗
    • 克服法: 「強制」ではなく、「より良くするための提案」としてメリットを伝えることが重要です。前述の「課題洗い出し会議」のように、社員自身が課題を見つけ、改善策を考えるプロセスを経験させることで、主体的な導入へと繋がります。成功事例を共有し、「自分たちにもできる」という成功体験を積ませることも有効です。
  • 障壁3: 誰が主導するのか分からない
    • 克服法: 経営者がDX推進の重要性を明確に示し、担当者を任命することが不可欠です。IT部門がなくても、業務をよく知るリーダーや、新しいもの好きの社員が中心となることで、スムーズな導入が可能です。

次のステップ:さらなる業務改善へ

kintoneの導入は、あくまで業務改善のスタートラインです。一つの業務が改善されたら、次にどの業務を改善するか、また新たな課題はないか、常に「業務改善」の視点を持ち続けることが重要です。

  • データ活用: kintoneに蓄積されたデータを分析し、経営判断に役立てる。
  • 他システムとの連携: 会計システムや基幹システムなど、既存のシステムと連携させることで、さらに業務効率を高める。
  • 外部サービスとの連携: kintone連携サービスを活用し、活用の幅を広げる。

アイディア」と「工夫」次第で、kintoneの可能性は無限に広がります。

まとめ:DXの主役は「あなたとあなたの会社の皆さん」

中小企業におけるDX推進は、高額なIT投資や複雑なシステムの導入だけではありません。日々の業務に隠れた非効率を見つけ出し、それを改善していく「アイディア」と「工夫」、そして何よりも「現場で働く人々の視点」が最も重要です。

kintoneは、その「アイディア」と「工夫」を形にするための強力なツールです。ぜひこの機会に、皆さんの会社に潜む「なんとなくの不便」を「明確な改善点」として捉え、一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。

「業務の主役は、やっぱりその業務に携わる人」この言葉を胸に、ぜひ御社らしい業務改善を実現してください。