生成AI時代のマンダラ思考法

ChatGPTやClaudeといった生成AIの登場により、私たちの働き方や思考法は大きく変わろうとしています。膨大な情報を瞬時に処理し、驚くほど自然な文章を生成するAIは、多くの人々にとって強力な味方となる一方で、「人間としての思考力が不要になるのでは?」という不安も生んでいます。

しかし、AIの時代だからこそ、実は人間らしい体系的な思考力がより重要になっているのです。本記事では、古くから知られながらも現代のAI時代においてその価値が見直されている「マンダラ思考法」に焦点を当て、生成AIとの併用によってどのように私たちの創造性や問題解決能力を高められるかを探っていきます。

マンダラ思考法とは何か

マンダラ思考法は、3×3のマス目(計9つのセル)を用いた思考整理法です。中心となるテーマを設定し、その周囲8つのマスにそのテーマを構成する要素や関連する概念を配置していきます。さらに、それぞれの要素を中心として新たな3×3のマス目を展開することで、思考を体系的に広げていくことができます。

この思考法の特徴は以下の点にあります:

  1. 構造化された思考展開: リニア(直線的)ではなく、多方向に思考を展開できる
  2. 視覚的な整理: 複雑な問題や課題を分解して視覚的に整理できる
  3. 発散と収束: アイデアを広げる発散思考と、整理する収束思考の両方に活用できる
  4. 脳のメモリ解放: 考えていることを外部化することで、新たな発想を生み出しやすくなる
  5. 潜在意識の活用: マンダラに書き出した内容が潜在意識に働きかけ、日常の中でもアイデアが浮かびやすくなる

従来のブレインストーミングやマインドマップと比較すると、マンダラ思考法は制約のある中での創造性を引き出す点に特徴があります。3×3という限られた枠組みの中で考えることで、かえって深い思考が促されるのです。

生成AI時代におけるマンダラ思考法の価値

構造化されたプロンプト設計の基盤に

生成AIを効果的に活用するためには、適切なプロンプト(指示)を与えることが重要です。しかし、多くの人は「何をどう聞けばよいのか」という最初の一歩で躓いています。

マンダラ思考法は、この問題を解決する強力なツールとなります。例えば、「新商品開発」というテーマをマンダラの中心に置き、周囲に「ターゲット顧客」「市場動向」「競合分析」「価格戦略」「デザイン」「機能性」「販売チャネル」「マーケティング戦略」といった要素を配置することで、新商品開発に必要な視点を網羅的に整理できます。

この構造化された思考をベースに、各要素についてさらに細分化したプロンプトを生成AIに投げかけることで、単に「新商品のアイデアを出して」と漠然と尋ねるよりも、はるかに質の高い回答を得られるようになります。

AIとの対話を深める思考の枠組み

生成AIとの対話は、往々にして一問一答の繰り返しになりがちです。しかし、マンダラ思考法を用いることで、より体系的かつ深い対話が可能になります。

例えば、業務効率化について考える場合、マンダラの中心に「業務効率化」を置き、周囲に「会議の改善」「文書管理」「コミュニケーション」「タスク管理」「意思決定プロセス」「ナレッジ共有」「リモートワーク」「評価システム」といった要素を配置します。各要素についてさらにマンダラを展開し、具体的な課題や改善策を整理していきます。

この整理された思考構造を基に、AIに対して「会議の改善においてリモートと対面のハイブリッド形式で最も効果的な進行方法は?」といった具体的な質問を投げかけることで、より実践的で深い示唆を得ることができるのです。

地頭力の強化による差別化

AIがあらゆる情報処理を代行する時代において、「AIに何を聞くか」を考える力、つまり「地頭力」が人間の差別化要因となります。

マンダラ思考法は、まさにこの地頭力を鍛える最適な方法の一つです。マンダラを用いて問題を多角的に分解・整理する習慣をつけることで、物事の本質を見抜く力や、異なる視点から創造的な解決策を見出す能力が養われます。

AIは与えられた指示に基づいて回答を生成するツールに過ぎません。どれだけ高度なAIであっても、その活用方法を考えるのは人間の役割です。マンダラ思考法で鍛えられた構造化された思考力があれば、AIを最大限に活用して他者と差別化された価値を生み出すことができるでしょう。

マンダラ思考法とAIを組み合わせた実践手法

STEP 1: テーマの設定と基本構造の構築

まずは取り組むテーマや解決したい課題を明確にし、マンダラの中心に据えます。次に、そのテーマに関連する8つの要素や視点を周囲のマスに配置します。この段階では、AIに「〇〇というテーマに関連する主要な要素や視点を8つ挙げてください」と質問することも有効です。

STEP 2: 各要素の深掘りとマンダラの拡張

中心から派生した8つの要素それぞれについて、新たなマンダラを作成します。例えば、「プロダクト開発」というテーマから派生した「市場調査」という要素について、さらに「競合分析」「顧客インタビュー」「トレンド分析」などの細分化された要素を配置していきます。

この段階でも、AIに「市場調査という観点からさらに詳細に検討すべき要素を8つ教えてください」といった質問をすることで、自分では思いつかなかった視点を得ることができます。

STEP 3: AIへのプロンプト設計

マンダラで整理された思考構造を基に、AIへの効果的なプロンプトを設計します。単に断片的な質問を投げかけるのではなく、マンダラで整理された文脈や関連性を含めたプロンプトを作成することで、より質の高い回答を引き出せます。

例えば、「新規事業開発において、市場調査の一環としての競合分析で特に注目すべきポイントは何ですか?特に、デジタルトランスフォーメーションが進む業界において、従来の競合だけでなく、異業種からの参入の可能性も考慮した分析方法を教えてください」といった具体的なプロンプトが可能になります。

STEP 4: AIの回答を再びマンダラに統合

AIから得られた回答や示唆を、マンダラ思考法の枠組みに再び統合します。これにより、AIからの情報を自分の思考体系の中に適切に位置付け、全体像を見失うことなく思考を深めることができます。

この循環を繰り返すことで、AIとの創造的な協働関係が構築され、単にAIに依存するのではなく、AIを活用しながら自らの思考を発展させていくことが可能になります。

マンダラ思考法で鍛える「AI時代の知性」

1. 構造化思考力

マンダラ思考法は、物事を構造的に捉え、関連性を見出す能力を養います。この能力は、複雑化・多様化する現代社会において、情報の洪水に溺れることなく本質を見抜くために不可欠です。

AIはデータから相関関係を見出すことは得意ですが、その意味や価値を判断するのは人間の役割です。マンダラ思考法で鍛えられた構造化思考力があれば、AIの出力を批判的に評価し、真に価値ある洞察を抽出することができます。

2. メタ認知能力

マンダラ思考法を実践することで、自分自身の思考プロセスを客観的に観察・評価する「メタ認知能力」も強化されます。自分が何を知っていて何を知らないのか、どのような思考の癖や盲点があるのかを認識することで、AIとの適切な協働関係を構築できるようになります。

例えば、「このテーマについて自分はこの領域の知識が不足している」と認識できれば、AIにその部分を補完してもらうといった活用法が見えてきます。反対に、「このテーマについては自分の方が深い知見がある」と判断できれば、AIの出力を適切に修正・発展させることができるでしょう。

3. 創造的統合力

マンダラ思考法の最大の強みは、多様な要素や視点を統合し、新たな価値を創造する力を育むことにあります。AIは既存の情報から学習したパターンを基に回答を生成するため、真に革新的なアイデアを生み出すことには限界があります。

しかし、AIから得られた多様な情報や視点をマンダラの枠組みの中で統合し、新たな関連性や組み合わせを見出すことで、AIだけでは到達できない創造的なソリューションを導き出すことが可能になります。これこそが、AI時代における人間ならではの価値創造と言えるでしょう。

kintoneを活用したマンダラ思考法の実践

多くの企業でビジネスプラットフォームとして活用されているkintoneは、マンダラ思考法を組織的に実践するための優れたツールとなります。サイボウズでも「kintone AI ラボ」という形で実験的にAI機能が搭載されます。

それに併せ弊社「まんだらアプリ」を活用することで、チーム全体でマンダラ思考法を共有し、協働でアイデア創出や問題解決に取り組むことができます。

kintone上でマンダラ思考法を実践するメリットは以下の通りです:

  1. リアルタイムの共同編集: チームメンバーが同時にマンダラを編集し、アイデアを共有できる
  2. 履歴管理: 思考の発展過程を記録・追跡できる
  3. 通知機能: 新たなアイデアや更新があった際に関係者に共有される
  4. AIとの連携: kintoneのAPI連携機能を活用し、AIツールと連携させることも可能

特に中小企業においては、限られたリソースの中で最大限の効果を上げるために、マンダラ思考法とAIツールをkintone上で統合的に活用することで、業務改善や新規事業開発を効率的に進められるでしょう。

AI時代を生き抜くためのマンダラ思考法

生成AIの台頭により、単純な情報処理や定型的な作業は急速に自動化されつつあります。このような時代において、私たち人間に求められるのは、AIと協働しながらも、AIにはない人間ならではの思考力や創造性を発揮することです。

マンダラ思考法は、まさにそのような人間らしい思考力を養い、発揮するための強力なツールと言えます。構造化された枠組みの中で多角的に思考を展開し、AIからの情報を自分の思考体系に取り込みながら、より深い洞察や創造的なアイデアを生み出していく。

そして、その過程で培われる「構造化思考力」「メタ認知能力」「創造的統合力」は、AI時代を生き抜くための最も重要な能力となるでしょう。AIに使われるのではなく、AIを使いこなす。マンダラ思考法は、そのために必要な「地頭力」を鍛える最適な方法の一つなのです。

今日から、あなたのビジネスや日常生活にマンダラ思考法を取り入れてみませんか?紙とペンだけでも始められますし、kintoneの「まんだらアプリ」を活用すれば、チーム全体での実践も可能です。AIの力を借りながらも、最終的には人間らしい思考で価値を創造していく。それこそが、これからの時代に求められる真の知性ではないでしょうか。