「え、来月で退職されるんですか……?」 長年、現場を支えてくれたベテラン社員さんのその一言に、背筋が凍るような思いをしたことはありませんか?
「あの人に聞けば大丈夫」という安心感が、一瞬にして「あの人がいなくなったらどうしよう」という不安に変わる。今回は、そんな現場の切実な課題を、kintoneを使ってどう乗り越えていくか、一緒に考えていきましょう。
なぜ「1ヶ月の引き継ぎ」は、いつも失敗するのか
退職が決まってから、慌てて「マニュアルを作ってください」「引き継ぎの時間を取ってください」とお願いする。中小企業の現場で繰り返される光景ですが、実はこれ、かなり難易度が高いことなんです。
なぜなら、ベテランの方が持っているノウハウは、もはや「呼吸」と同じくらい無意識なものになっているからです。
- 「このお客様の時は、あえてこのタイミングで連絡を入れる」
- 「このエラーが出た時は、まずここを疑う」
- 「書類のこの項目、実はこっちの数字と照らし合わせる必要がある」
これらは、分厚いマニュアルの中には書いていない、いわば「暗黙知」です。これを数週間の引き継ぎ期間で全て書き出すのは、無理というもの。引き継ぎを受けた後任の方が「マニュアル通りにやったのに、なぜかうまくいかない」と途方に暮れてしまうのは、ノウハウが「個人」に紐づいたまま、形を変えずに渡されてしまうからなんです。
「マニュアル=辞書」という思い込みを捨ててみる
多くの会社でマニュアルが活用されない理由。それは、マニュアルを「困った時に引く辞書」だと思っているからです。でも、辞書って普段は開きませんよね? 埃をかぶって、いざという時にどこにあるか分からない。これでは意味がありません。
私たちが目指したいのは、マニュアルを「現場の地図」にすることです。
kintoneを導入している企業様であれば、すでに業務アプリで日々のデータを入力されているはずです。その「入力画面」のすぐ隣に、その業務のコツや手順が添えられていたらどうでしょう?
「マニュアルを探しに行く」のではなく、「仕事をしているその場所に、答えがある」。 この小さな環境の変化が、ベテランのノウハウを組織の資産に変える第一歩になります。
【実践】ノウハウを「組織」へ移すための3ステップ
では、具体的にどうすれば「個人」から「組織」へスムーズにノウハウを移せるのでしょうか。kintoneを活用した、明日からできるアクションプランをご提案します。
ステップ①: 「質問」を宝物にする文化をつくる
ベテランの方に「マニュアルを書いてください」と言うと、何から書いていいか分からず手が止まります。 代わりに、新人の子や後任の方が「ここ、どうすればいいですか?」と聞いたその瞬間を逃さないでください。その質問と答えを、そのままkintoneのコメント欄や、専用のスレッドに残す。 「質問が出た=そこがマニュアルに足りない部分」という共通認識を持つのです。
ステップ②: 「完璧」を禁止する
「立派なマニュアルを作らなきゃ」と思うと、完成するまで公開できません。でも、現場は刻一刻と変わります。 まずは、スマホで撮った15秒の動画や、手書きのメモの写真でもいいんです。kintoneのレコードにペタッと貼り付ける。 「100点のマニュアル」を1年かけて作るより、「30点のヒント」を毎日積み上げる方が、組織としての生存能力は圧倒的に高まります。
ステップ③: 「みんなで直す」というルール
ベテランが作ったものに新人が口を出すのは勇気がいりますよね。でも、「マニュアルはみんなで育てるもの」という風土をリーダーが明言してください。 「ここ、分かりにくかったです」というフィードバックを歓迎する。それを受けて、ベテランが「じゃあ、こう書き直しておこうか」と一緒に修正する。 この共同作業こそが、ノウハウが「個人」から「組織」へと染み出していく瞬間なんです。
マニュアル作りは「思いやり」のバトンパス
「マニュアル化する」と聞くと、なんだか業務が冷徹に機械化されるようなイメージを持つ方もいらっしゃるかもしれません。でも、私は逆だと思っています。
マニュアルを作ることは、「次にこの仕事をする人が、自分と同じ失敗をして悲しい思いをしないように」という、究極の優しさです。
ベテラン社員さんがこれまで積み上げてきた苦労や工夫。それを「背中を見て覚えろ」で終わらせるのではなく、組織の共通財産として大切に受け継いでいく。 「あなたが頑張ってくれたおかげで、今の私たちがある。だからこの知恵を、次の世代にも繋いでいくね」 そんな感謝の気持ちがベースにあるマニュアルは、必ず現場に浸透します。
kintoneだからできる「対話型」の業務改善
kintoneが素晴らしいのは、単なるデータベースではなく「コミュニケーションの場」であることです。 マニュアルを見て業務をしてみた人が、「やってみたけれど、この手順は今のやり方だと少しズレているかも」とコメントを入れる。それに対して、「本当だね、今のバージョンに直しておこう」と誰かが応える。
この循環が生まれると、ベテランが退職しても現場は混乱しません。なぜなら、その知識はすでにマニュアルという形を借りて、組織全体の「共有認識」になっているからです。
「誰かがいないと回らない現場」から、「誰がいても、みんなで助け合える現場」へ。 マニュアルを整えることは、社員一人ひとりのウェルビーイング(幸福な働き方)を守ることにも繋がります。
「ベテランの退職」を、ただのピンチで終わらせるか。それとも、組織が一つ上のステージへ上がるチャンスにするか。その鍵は、日々の小さな「ノウハウの言語化」にあります。 まずは今日、誰かが発した「これ、どうやるの?」という質問を、kintoneにメモするところから始めてみませんか? 一歩ずつ、みんなで強い組織を作っていきましょう。応援しています!
もし「うちの現場ではこんな風にノウハウを残しているよ!」という工夫があれば、ぜひ教えてください。皆さんの知恵を共有し合うことで、もっともっと仕事が愉しくなると信じています。
kintoneをさらに活用して、マニュアルを「見るのが当たり前」の文化にしたい。そんなときは、プラグインなどを活用して、より「使いやすい形」を模索してみるのも一つの手かもしれません。大切なのは、道具をどう使うかよりも、「誰のために、どう残すか」という皆さんの想いです。
Gibbons 