生成AIの登場で、ビジネスと現場の仕事はこれまで以上のスピードで変化しています。
「このやり方のままで大丈夫かな?」と感じている方も多いのではないでしょうか。AI時代を生き抜く鍵は、実は派手な技術よりも「可変性」と「マニュアルの育て方」にあるのかもしれません。
AI時代のビジネスで本当に起きていること
生成AIは、「そのうち来るかもしれない未来の技術」ではなく、すでに私たちの仕事の中に入り込んでいます。
産業革命、パソコン、インターネット、スマホ――。歴史を振り返ると、大きな変化が来るたびに「世界の標準」が書き換えられてきました。
AIも同じで、
- 「AIなんて自分には関係ない」と横を向く
- 「よく分からないけど、少しずつ触ってみる」
このどちらを選ぶかで、数年後の忙しさや仕事量は大きく変わってきます。
よく聞かれるのが、「AIで仕事はなくなるのか?」という問いです。
個人的に確実だと思っているのは、
「何も変わらない/変えたくない」と考えるほど、仕事量は目に見えない形で減っていく
ということです。
逆に言うと、「全部分からなくても、とりあえず試してみる」人たちが、次のスタンダードをつくっていくのだろうな、と感じています。
ビジネスの本質は、ずっと変わらない
では、そんな急激な変化の中で、ビジネスの本質はどうでしょうか。
- お客様が集まること?
- 流行に乗ること?
- 「バズる」コンテンツを生み出すこと?
いろいろな答えがありますが、私が大切だと思っているのはとてもシンプルで、
「お客様に必要な商品・サービスを、繰り返し提供し続けること」
です。
中華料理店をイメージしてみてください。
- 今日は店主の気分で蕎麦しか出てこない
- 明日は突然、韓国料理オンリー
- そもそも開いているかどうかが分からない
…となると、どれだけ味が良くても、ちょっと通い続けるのは怖いですよね。
多くのビジネスに共通しているのは、
- 「何が提供されるのか」
- 「いつ行っても同じ品質か」
この2つへの信頼です。
AI時代であっても、ここは変わらない「普遍的な部分」だと感じています。
AI時代のキーワードは「可変性」と「周知・配信の技術」
とはいえ、ビジネスは時代に合わせて姿を変えていきます。
ここを無視すると、気づかないうちにお客様とのズレが大きくなってしまいます。
そこで私が大切だと考えているのが、次の2つです。
- 可変性(変化を受け入れられる力と仕組み)
- 周知・配信の技術(変化を素早く「みんなごと」にする力)
少し砕いてお話ししてみますね。
可変性:変わることを前提にした現場づくり
可変性とは、簡単に言えば、
「やり方は変わってもいいし、変えられる」
という前提を持つことです。
AIや新しいツール、法改正、働き方の変化…。
世の中はすごい勢いで動いています。
「一度決めたやり方を絶対に変えない」前提のままだと、現場はすぐに苦しくなります。
可変性のある現場って、例えばこんな感じです。
- やり方を変えたいときに「一言も言えない」雰囲気ではない
- 「今までこうだったから」ではなく、「今の最適」を話題にできる
- 試してみて違ったら、ちゃんと戻せる/変え直せる
つまり、人のマインドセットだけでなく、仕組みやルールの側にも「余白」がある状態です。
逆に、業務フローやルールがガチガチに固定されていて、
- 一箇所変えるだけでシステム改修が大工事
- マニュアル修正に何週間もかかる
となると、現場は「変えたほうがいい」と分かっていても、体力的に変えられません。
「変えたほうがいい」と「変えられる」は、まったく別物なんですよね。
周知・配信の技術:変化を“高速で共有”する力
もう一つのキーワードが、周知・配信の技術です。
可変性を持つということは、
**「やり方が変わる頻度が高くなる」**ということでもあります。
ここで問われるのは、
- 変わった内容がどれだけ早く伝わるか
- どれだけ誤解なく伝わるか
- 誰もが同じ前提で動けるか
という「伝える側の力」と、「受け取る側の風土」です。
例えば、次のようなことが起きていないでしょうか。
- 変更のメールは出したけれど、誰も読んでいない
- 部署ごとに違うルールが生き残っている
- 「それ、もう古い手順ですよ」という会話が日常茶飯事
これらはすべて、周知・配信の仕組みが弱いサインです。
AI時代に限らず、
「変えたこと」がきちんと届いて、同じ方向を向けるか
ここが、現場の安定やお客様への品質に直結していきます。
マニュアルは「固定台本」から「変化を支える土台」へ
ここでようやく、マニュアルの話に戻ってきます。
AI時代のマニュアルに求められているのは、
かつてのような「一度作ったら終わりの完成品」ではなく、
変化に追いつき続ける“生きた土台”
としての役割です。
こんなマニュアルだと、変化に負けやすい
- PDFや紙のまま、更新されず放置されている
- どれが最新なのか、見る側が毎回迷う
- 現場の工夫や改善が、マニュアルに反映されない
- 更新の責任者が曖昧で、「誰も触らない」
こういう状態だと、せっかくAIや新しいツールで業務を変えても、
「現場のやり方」が追いつかずにチグハグになります。
AI時代のマニュアルに必要な3つの視点
- 見つけやすさ
- 「どこを開けば最新が分かるか」が明確
- スマホやタブレットなど、現場のデバイスからすぐアクセスできる
- 変えやすさ
- 誰がどうやって更新するのかルールが決まっている
- テキストや手順の差し替えが、日常的な作業として回る
- 伝わりやすさ
- 変更点がひと目で分かる
- 重要な修正は通知やミーティングなどで補完して共有する
この3つを押さえておくと、
マニュアルは「変化の足を引っ張る存在」から、
「変化を支える味方」に変わっていきます。
現場で実践するためのアクションプラン
ここからは、明日から試せる形で、
可変性と周知・配信力を高めるための具体的ステップを整理してみます。
STEP1:最新版マニュアルの「1つの入口」を決める
まずは、
- 「最新のやり方はどこを見れば分かるのか?」
を、組織として1カ所に決めてしまいましょう。
- 共有フォルダのこのパス
- あるクラウド業務システム上のこのアプリ
- 社内ポータルのこのページ
など、場所はどこでも構いません。
大事なのは、
「探す」のではなく、「決まった入口から行けば必ず辿り着ける」状態をつくること
です。
STEP2:更新フローを“シンプルに”決める
次に、マニュアルや手順を変えたいときのフローを決めます。
例)
- 現場担当が修正案を作る
- 上長または責任者がレビュー
- マニュアル担当が反映
- 変更履歴に簡単なコメントを残す
ポイントは、「完璧なフロー」よりも、回るフローにすることです。
最初から承認プロセスを複雑にすると、誰も触らなくなります。
STEP3:変更したら“ちゃんと知らせる”仕組みをつくる
可変性が高いほど、周知もセットで強化する必要があります。
- 社内チャットで「マニュアル更新のお知らせ」を送る
- タイトルに【重要】【現場向け】などラベルをつける
- 変更内容の要約を3行で書く
- 何が変わったか
- いつから適用か
- 誰に関係するのか
「全部読んでね」ではなく、
「ここだけ押さえればOK」を明示してあげる
ことで、受け取る側の負担も減らせます。
AI時代だからこそ、現場に寄り添うマニュアル運用を
AIの話をすると、どうしても「高度な自動化」のイメージが先行しがちですが、
現場で本当に効いてくるのは、もっと地味で、もっと人間くさいところです。
- 変えてもいい、変え直してもいいという風土
- 変えた内容が、ちゃんとチーム全体に伝わる仕組み
- その土台としての、マニュアルの育て方
これらが整っている現場は、AIを使おうが使うまいが、
変化に強い、しなやかな組織になっていきます。
「マニュアルで困っている」「現場にルールが浸透しない」と感じている方ほど、
AIの前に、この**“可変性”と“周知・配信の技術”**を一緒に見直してみてほしいな、と思います。
AI時代のビジネスを支えるのは、派手なテクノロジーだけではなく、変化を受け入れる「可変性」と、それを現場に届ける「周知・配信力」です。マニュアルをその土台として育てていくことで、変化の波の中でもブレない現場を一緒につくっていきましょう。
Gibbons 