業務改善の新しいアプローチ

~要件定義を“マニュアル化”して始める方法~

業務改善のためにシステムを作り始めたものの、気づけば「機能の迷路」に迷い込んでしまう…。そんな経験はありませんか。今回は、開発前に“マニュアルを書く”ことで要件を固める、現場目線の新しいアプローチをご紹介します。

現場で本当に使われるシステムを作るために

「マニュアルから始める要件定義という考え方」

■「機能の迷子」になってしまう理由

業務改善プロジェクトでよくあるのが、次々と便利そうな機能に目移りしてしまい、
「最初、何を解決したかったんだっけ?」
と目的を見失ってしまうことです。

・あの機能も便利そう
・この機能も追加しよう
・気づいたら画面が複雑に…
・運用イメージが曖昧なまま開発が進む
・完成したが現場では使われない

こうした“機能主導の設計”では、本来の課題解決から遠ざかり、現場での運用が定着しません。

では、どうすれば「現場で本当に使われる」システムを作れるのでしょうか。

■「マニュアルを先に書く」ことで要件が明確になる

ここで有効なのが、
「システム構築より先に、使い方のマニュアルを書く」
というアプローチです。

これは「使い方を決めてから、仕組みを作る」という考え方。
曖昧だった業務フローが、マニュアルを書く過程で次のように具体化します。

  • 誰が、どの画面で、どんな操作をするのか
  • どの順番で進めるのか
  • 他部署との連携はどこで発生するのか
  • 入力項目に抜け漏れはないか
  • エラー時の対応はどうするのか

つまり、マニュアルを書くこと自体が
= 要件定義になり
= テストケースになり
= 完成後の運用イメージにもなる

ということです。

■ “登場人物(ユースケース)” から書き始めるのがコツ

マニュアルを先に書くといっても、いきなり全体を書く必要はありません。

おすすめは
「登場人物(ユースケース)ごとにマニュアルを書く」
という方法です。

▼例:登場人物ごとに書くとどう変わる?

●総務のAさん(申請を確認する人)

・どの画面から申請一覧を見るか
・承認はどのボタンで行うのか
・差戻しのコメントはどこに記載するか

●現場スタッフBさん(申請をする人)

・申請前に必要な情報
・どの項目に何を入力すべきか
・添付する書類のルール

●上長Cさん(最終承認者)

・承認の判断基準
・どのステータスで処理が完了するのか

こうした個別のマニュアルを書くことで、
“誰がどんなシナリオで動くのか” が可視化され、システムの仕様が自然に固まっていきます。

ここで大切なのは、
「現実的な運用を想定したマニュアルを書く」 ことです。

■注意:実現不可能な“理想のマニュアル”にしないこと

ありがちな失敗は、
「ピッと押したら全部終わる」
のような、実運用とかけ離れた理想のフローを書いてしまうこと。

それでは要件定義になりません。

▼避けるべき例
・「1クリックで全データが自動整理される」
・「承認後は全てのシステムが連動して更新される」

▼望ましい例
・「申請は3ステップで完了するが、書類の添付は手動で行う」
・「承認時に自動メールを送信するが、文面は管理者が調整できる」

現場で実際に動かせるラインを探りながらマニュアルを書くことで、
「できること」と「できないこと」が整理され、仕様がぶれなくなります。

■マニュアルがそのまま“テストケース”になる

開発が進み、システムが形になったら、
書いたマニュアルを使って操作します。

  • マニュアル通りに動作するか
  • 操作手順に無理はないか
  • 想定通りの結果が得られるか

これはまさに
テストケースそのもの です。

特別なテストシナリオを作らなくても、
本番さながらの動作確認が可能になります。

さらに、
改修が入ったときにもマニュアルが最新の基準となり、現場スタッフの混乱を防ぎます。

■現場との“認識差”をなくしてくれる

開発担当者と現場担当者の間でよく起きるのが「認識ズレ」。

  • 「言っていたのと違う」
  • 「その操作は想定していなかった」
  • 「その画面は使いづらい」

こうしたギャップを埋める最も強い手段が、
“マニュアルを見ながら話す” こと です。

文章にすることで、
曖昧な部分・決めきれていない部分がすべて可視化されます。

マニュアルは“現場と開発の共通言語”として、とても強い効果を発揮します。

■小さく始めて、徐々に広げるのがおすすめ

すべての業務を一気にマニュアル化しようとすると、大きな負担になってしまいます。

まずは
1つの業務フロー
1人の登場人物
から小さく始めてみることをおすすめします。

小さくても完成形に近いマニュアルが1つできると、
そこから横展開していくスピードが一気に上がります。

マニュアルを先につくる要件定義は、現場のリアルな動きをベースにした実践的な方法です。小さな一歩から始めて、現場に寄り添った業務改善を進めてみてください。